高等教育の検討

高等教育を無償化するという話題がある。現在の高等教育の位置づけを考察する。高等学校までの教育達成目標については、高等教育への橋渡しとして受験教育の影響が大きい。一方高等教育の達成目標・期待できる効果については、一般教育と職業教育とが混在している状況である。職業教育に関しては以下のような、意見がある

【高等教育で、ある意味職業教育として位置づけられているのは医学のみである/教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書) 本田 由紀】。

旧来、日本では職業教育としては徒弟制度に裏打ちされた作業を通しての教育(OJT)が主に行われてきた。特定の職業教育に内在する試行錯誤の成果は徒弟制度で維持されてきたが、汎用性のあると信じられている科学に裏付けられた試行錯誤の実行には一般教育で培われた知識こそ有効である。

文科省の[大学における工学系教育の在り方に関する検討委員会]」の議事録には

大学における工学系教育の在り方に関する検討委員会(第4回) 配付資料:文部科学省

5.人材育成を担うべき人物像
工学教育改革を進める上で重要なことの一つとして、大学教員の意識改革が挙げられ
る。産業界の中堅研究者・技術者へのヒアリングを行った際も、大学の講義や実験が社会とどのように繋がっているのかイメージが湧かず、就職してから大学で学んだことの重要性に気付いたという意見が多く聞かれるなど、大学教育の教え方について、これまでのような教員が教えられる・教えたい教育中心ではなく、学生が主体的に学べる環境を確立し、大学卒業後の出口を見据えた教育システムに転換する必要がある。
また、大学と産業界のマネジメントを理解すること、他分野への関心と協調性を持つことや教育研究資金を集めることができるような発想力等も大学教員には重要である。
 
と記されている。高等教育の知識を学生に授ける機能をMOOCによる自己学習に移行させ、寄り集う場所を活用して自己設定した課題を解決する手法自体を学ぶことが教育の位置付けとすることによって、学生の支払う高等教育費用を、自己設定課題の設定と解決への力量を訓練投資に振り向けることが期待される。
 
一方職業に就いてのちについてはOECD報告:成人力調査を見ると、日本の生涯学習への参加率は低く、成人の学ぶ意欲は、調査参加国中で最下位に近いことが示されている。そうした学習率の低さに繋がっている要因の中には、日本の成人の時間的および経済的な制限、教育内容が労働市場との関連性に欠ける点や、関心または動機の欠如が指摘されている。日本での生涯学習率を高めるためには、学習が労働市場のニーズに沿ったものであること、失業者または積極的に労働市場に関わっていない者の就職支援につながること、そして仕事をしていて学ぶ時間が限られている労働者が参加できるようにすることが求められる。
MOOCなどを含めた自己学習・図書、さらに対面学習を通して、自己設定課題の明確化と解決への模索・試行錯誤が、労働の現場と交差することが学習者の興味を育てることになる。
人間が関わるさまざまな環境を時代と呼ぶ。時代は変化しつづけるものだが、その加速度は大きくなっている。個人が時代の流れに取り残されない・流れに棹さして生きていくためには生涯学習は不可欠である。時代が総体として変動していくときには、ある意味探している「青い鳥」を鳥の色・性質が変わってしまう。「青い鳥」を求めて放浪する場合にも学習・自己のものを感じる能力を磨き続けないとさらに疎外されてしまう危険性がある。常に身近の課題を見出し解決していく能力、その能力を支えるスキルを獲得するこそが生涯学習として求められている。